ダイキン工業のAI・データ分析人材育成を支援。生成AI・数理最適化を実務につなげるNOB DATAの研修企画
写真左から : NOB DATA大城、ダイキン工業株式会社 建部様、板谷様
ダイキン工業株式会社は、世界170カ国以上で事業を展開する空調機器メーカーです。1924年の創業以来、熱交換技術やフッ素化学技術を軸に、業務用から家庭用まで幅広いソリューションを提供しています。2024年度の連結売上高は4兆円を超え、「空気で答えを出す会社」として、環境負荷低減と快適な空間創造の両立に挑み続けています。
ダイキン工業株式会社が運営する「ダイキン情報技術大学(DICT)」では、ドメイン技術とデジタル技術の双方を理解し、部門横断でイノベーションを生み出すπ型人材の育成に取り組んでいます。
生成AIやデータ分析技術の進化が加速する中、既存社員が高度なAI活用・データ分析を実務に取り入れ、自走できるようになるための研修が求められていました。
NOB DATAは企画段階から参画し、生成AI・時系列解析・数理最適化の専門領域を組み合わせた研修プログラムの設計・運営を支援。受講者が実際の業務課題をもとにAIアプリを開発するなど、実務直結型の学びを実現しました。
お話をうかがった方
- 板谷様:DICT事務局統括・主任技師
- 建部様:DICT事務局、既存社員向け講座の企画・運営、DICT3期生
- 江口様:DICT事務局、既存社員向け講座の企画・運営、DICT5期生
目次
課題:高度なAI活用と人材育成の課題
- 生成AIなどの技術進化が非常に速く、従来の基礎的な講座だけでは最新の知識に追いつけない危機感があった。
- 社内版ChatGPTなどの環境整備は進んでいたものの、実際の業務での高度な活用に結びついている社員が少ない。
- データ分析を学んだ社員が配属された後、現場で具体的な相談ができる相手が限られるという課題もあった。
取り組み:NOB DATAが支援した高度な研修プログラムの企画と運営
- 生成AI・データ分析領域に知見を持つNOB DATAが企画段階から参画し、生成AI講座では毎週の最新ツール情報に合わせてカリキュラムを柔軟に調整。
- NOB DATAの推薦で協力企業(スキルアップNeXt、エルデシュ)を組み合わせ、時系列解析・数理最適化・生成AIの専門領域を分担運営。
- 座学と演習を組み合わせ、受講者が実際の業務課題に対してAIを活用し、解決するためのアプリ開発を実践。
効果:実務で活用できるスキル習得と組織力の向上
- 生成AIの最新情報を踏まえた講座により、受講生が自律的に業務課題を解決するためのアプリを開発できるようになった。実装されたアプリには、化学物質毒性情報の自動抽出、サービス資料からの情報抽出、講座アンケート分析ダッシュボードなど実務利用につながる成果も生まれている。
- 時系列数理最適化のスペシャリストから直接学ぶことで、理論だけではないビジネス視点でのデータ活用法が浸透。事務局が現場からの相談に対してより的確な助言を行える体制が実現。
- 受講者から「こんなに簡単にできるのか」といった驚きの声や、「カルマンフィルターなどの活用方法が理解できた」という実務への応用についてのポジティブなフィードバックが寄せられた。
ポイント:2010年から続く専門家ネットワークを活かした研修コーディネート
- 2010年から続く分析者・技術者コミュニティを基盤とした専門家ネットワークを活かし、ダイキンのニーズに合わせて生成AI・時系列解析・数理最適化の専門領域を組み合わせた研修プログラムを企画・運営。
- 理論の学習だけで終わらせず、実際の業務課題を解決するためのアプリ開発などを組み合わせた研修で、短期間で実務に耐えうるツールを自力で構築できる人材の育成に成功。
- 毎週の最新ツール情報に対応できるNOB DATAの柔軟なカリキュラム調整力。
大手製造業のDX人材育成を担うダイキン情報技術大学。π型人材育成の現在地
- DICTについて、その目的と現在の状況を教えてください。
板谷様 : 当社は、空調事業を中心とした製造業として発展してきましたが、近年のデジタル化により、ハードウェアだけでなくソフトウェアが重要になる中、デジタル人材の確保が大きな課題となっていました。外部採用による優秀なデジタル人材の獲得競争が激化していることから、社内で人材を育成する方針を掲げ、2017年にDICTを設立しました。DICTでは、ドメイン技術(空調などの業界知識)とデジタル技術の両方を理解し、部門横断的にイノベーションを実現できるπ(パイ)型人材の育成を目指しています。
設立当初は、2020年度までに新入社員1,000人をIPAのITスキル標準でいうところのレベル3まで到達することを目標にしており、無事に達成しました。その後も目標を上方修正し続け、2025年度末には2,000人まで育成することを目指しています。副次的な効果として、社内教育が充実して社内のスキル水準が向上したことで、レベル5、6相当のハイレベル人材の採用ができるようになったことがあります。
企画段階から参画し、専門領域を組み合わせる。NOB DATAが評価された研修設計力
- データ分析、生成AI活用の研修を実施しようと考えられたきっかけは何ですか?
建部様 : 一つはAI利用の定着です。以前より、弊社では社内版ChatGPTを整備し、セキュアな環境で生成AIを活用できるようにしています。しかし、基礎的な生成AI講座は2年目の社員に対象が限定されており、既存社員で高度なAI活用ができる人が少ない状況がありました。一部ではチャット形式のAI活用は広まっていますが、より高度な活用を実践できる人がほとんどいませんでした。
もう一つは、生成AIの進化の速さです。AI技術は急速に進化しており、月単位で新しい知識をアップデートしていかないと、進化に取り残されてしまうという危機感がありました。そこで、今年度から一定のスキル基準を満たした社員が参加できるAIの講座を用意することになりました。受講希望者が上司に伝えて、上司が申請するというフローになっています。
- 従来のデータ分析やスキルでは、どのような課題や壁を感じていましたか?
建部様 : 部門に配属されたDICT卒業生の中には、配属先にデータ分析に精通した人材がいないケースも多く、不明点があっても自ら調査するしかない状況にありました。その結果、新たな知見を得る機会や、他者とディスカッションする場、気軽に相談できる環境が不足しているという課題が顕在化していました。
こうした課題を踏まえ、技術力のさらなる向上に加え、メンバー同士の横のつながりの構築や、講師への相談機会の創出を目的として、2025年度より新たに「データ分析エキスパート講座」を開設することとなりました。
- 講座のテーマとして、時系列数理最適化と生成AIを選んだ理由は?
建部様 : 時系列数理最適化と生成AIをテーマにしました。当社で扱うデータは空調運転データ、供給・在庫管理データなど時系列データが多く、異常検知や数理最適化のニーズが高くありました。一方、生成AIは前述したように、社内でまだ活用しきれていない状況があったので選びました。
- 研修会社として、なぜNOB DATAを採用されたのですか?
板谷様 : 偶然の出会いがきっかけです。ある講演会でNOB DATA代表の大城氏と席が隣で話をする機会があり、ダイキンの取り組みを紹介したところ、関心を持ってもらいました。その後改めて打ち合わせをする機会があり、NOB DATAの事業について紹介してもらいました。AIなど最先端の情報を収集するのに限界を感じていたので、データサイエンティストなど先端技術者から構成されるNOB DATAは、我々が求めている知識やスキルを提供してくれると感じ、研修を依頼することになりました。
建部様 : 研修については、企画段階からNOB DATAに参画してもらい、内容を検討することになりました。検討の結果、生成AIはNOB DATAに、時系列解析はスキルアップNeXtに、数理最適化はエルデシュが担当することになりました。こちらの2社については、NOB DATAから推薦があり、協力を依頼しました。どちらも実績が豊富で、高いレベルの講義を提供できると判断しました。ニーズに合わせて、適切な会社を組み合わせ、研修プログラムを企画するNOB DATAのプロデュース力を評価しています。
NOB DATAの研修設計を支える、2010年から続く専門家ネットワーク
NOB DATAは、2010年から毎月継続している分析者・技術者向け勉強会コミュニティを基盤に、データ分析・AI領域の専門家ネットワークを築いてきました。
今回の研修でも、生成AI領域はNOB DATAが担当し、時系列解析・異常検知はスキルアップNeXt、数理最適化はエルデシュと連携。各領域の専門性を組み合わせることで、ダイキン工業の高度な人材育成ニーズに応える研修体制を構築しました。
座学で終わらない実務直結型研修。受講者が業務課題を解決するAIアプリを開発
- データ分析エキスパート講座の概要を教えてください。
建部様 : 2025年7月〜2026年2月にかけて、2コース合わせて30回の構成で実施しました。コースは、生成AIコースと時系列数理最適化コースの2つで、一部基礎的な講座は両コース共通です。生成AIコースでは、生成AIの基礎から実務応用まで、時系列数理最適化コースでは、時系列解析、異常検知、数理最適化について学びました。
- カリキュラムはどのように構成されましたか?
建部様 : 時系列数理最適化コースは、スキルアップNeXtが時系列解析・異常検知の講座を、エルデシュが数理最適化を担当し、どちらも講義と演習で構成されました。
江口様 : 生成AIコースでは、最新ツールの情報が毎週アップデートされる中、事前に決まったカリキュラムに固執するのではなく、臨機応変に最新の情報に則った講座内容に調整できたことが、従来型の研修では対応しづらい、NOB DATAならではの強みでした。
- 生成AIコースの演習では、どのような成果がありましたか?
江口様 : 生成AIの演習では、受講者が実際の業務課題に対して生成AIを活用し、解決するためのアプリ開発を行いました。最後に、受講者が開発したアプリのプレゼンをしましたが、どれもレベルが高く驚きました。
開発したアプリには、資料を読み込ませて化学物質毒性情報を自動抽出するアプリ、膨大なサービス資料から必要情報を自然言語で抽出するアプリ、講座アンケート分析ダッシュボードなどがあります。
建部様 : 講座アンケート分析ダッシュボードは、私が開発して業務でも利用しています。アンケートデータを入力すると、グラフ化やサマリーなどBIツールのような可視化に加えて、講座の改善点の提案などもしてくれます。これまでは集計、分析は人手でやっていたので、大幅な効率化になっています。
基本的な開発は約半日、その後継続的なブラッシュアップをしています。生成AIを使わなければ自分だけで開発できるようなものではありませんし、開発を依頼した場合でも1-2ヶ月かかると思います。その点で生産性が大幅に向上したと言えます。
生成AI活用の裾野を広げ、事例共有と内製化へ。DICTが描く次の展開
- 受講者の反応はいかがでしたか?
建部様 : 生成AIコースでは、「こんなに簡単にできるのか」という驚きの声が多くあがっていました。
時系列数理最適化コースでは、「知識としては知っていたが、活用イメージが湧かなかったカルマンフィルターなどの分析手法の活用方法が理解できるようになった」との声がありました。
江口様 : 私は一受講者として楽しく学ぶことができ、よい経験となりました。自分でも生成AIについて勉強をしていますが、どうしても視野が狭くなりがちです。研修に参加することで、講師だけでなく受講生同士でのディスカッションで多角的な視点が得られたと思います。
- 学んだスキルを業務にどう活かしていきたいですか?
建部様 : 生成AI活用については、業務で積極的に活用して、効率化していきたいです。時系列数理最適化については、高度な分析手法の知見が得られたことで、事務局にデータ分析に関する相談があった時に、より適切な判断と助言ができるようになったと思います。
江口様 : 現在、データ分析の基礎講座を教えていますが、時系列数理最適化などの専門的なことはまだ難しいのが実情です。しかし、研修を通して応用領域の知識取得ができれば、将来的に内製化できる講座内容が拡大すると考えています。
- この講座は、今後も継続していくのでしょうか?また、具体的な今後の方針は?
建部様 : はい。今、来年度の研修について相談しています。データ分析者の技術力のさらなる向上に加え、メンバー同士の横のつながりの構築や、講師への相談機会の創出といった課題はまだ残っているため、継続していきたいと考えています。生成AI講座については、活用する人を増やしていきたいので、基礎的な内容やリスク管理など入門者向けの講座についても新しく企画しています。
もう一つ必要な視点として、事例の共有があります。各部門で実装された最新事例を共有し、受講生同士が学び合える場を作っていきたいですね。こうした取り組みにより、高度なデータ分析に関する研修の内製化を段階的に進め、より多くの社員がAI・データ分析スキルを習得できる環境を整備していく計画です。
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