レポート
2025.03.28(金) 公開
OpenAI Responses API:AIエージェント開発の新時代を拓く

1. はじめに
近年、AIエージェントは様々な分野で注目を集めており、その開発を支援するツールの進化が求められています。このような背景の中、OpenAIはAIエージェント開発のための新たなAPI、「Responses API」を公開しました。この新しいAPIは、従来のChat Completions APIのシンプルさと、Assistants APIが持つツール利用の能力を組み合わせたものとして位置づけられています。
Responses APIの登場は、ツール利用、コード実行、そして会話の状態管理といった、これまで複雑であったワークフローを簡略化することを目的としており、OpenAIにおけるエージェント構築の将来的な方向性を示すものとされています。また、MicrosoftもAzure AI FoundryにおいてResponses APIの提供を開始しており、その広範な影響力が期待されています。
この新しいAPIの登場は、より洗練された自律的なAIエージェントを開発するための戦略的な転換を示唆しています。これまで、Chat Completions APIは主にテキスト生成に特化しており、複雑なエージェントタスクには限界がありました。一方、Assistants APIは高機能であるものの、導入のハードルが高いという課題がありました。
Responses APIは、これらのAPIのギャップを埋めるべく設計されており、ユーザーからのフィードバックを反映させながら、より使いやすく、強力なエージェント開発基盤を提供することを目指しています。Microsoftによる同時発表は、このAPIがエンタープライズレベルのAIアプリケーションにおいても重要な役割を果たす可能性を示唆しており、その早期導入と実用化が期待されます。
2. OpenAI Responses APIとは?
OpenAI Responses APIは、「エージェント指向のAPIプリミティブ」と表現される、新しいAPIです。これは、AIを活用したアプリケーションが、情報を取得し、データを処理し、そしてシームレスにアクションを実行することを可能にする強力なツールです。
Responses APIの大きな特徴の一つは、単一のAPI呼び出しで複数回のモデルとの対話を実現できる点です。さらに、Web検索、ファイル検索、コンピューター利用といった、AIエージェントが現実世界やデジタル環境と効果的に連携するための組み込みツールが用意されています。
このAPIはステートフルであり、会話の状態を管理し、何が変化したかを明確に示すセマンティックイベントを発行するため、会話の状態管理や複雑なロジックの実装が容易になります。デフォルトでは、APIの応答は30日間保存され、必要に応じて取得したり、保存を無効にしたりすることも可能です。
また、従来のChat Completions APIとは異なり、テキスト生成の入力にはmessages配列ではなく、input(文字列または配列)を使用し、出力はchoices配列ではなくoutputとして返されます。さらに、長期間にわたる会話を管理するために、previous_response_idというパラメータが用意されています。
「エージェント指向のAPIプリミティブ」という表現は、OpenAIがこのAPIを、自律的な推論と行動が可能なAIシステムを構築するための基本的な構成要素として捉えていることを示唆しています。これは、より複雑なエージェントアーキテクチャを構築するための核となるAPIとなる可能性を示唆しており、OpenAIのAIエージェント開発における長期的なビジョンを反映しています。
また、組み込みツールの存在は、複数の外部APIを統合する手間を省き、開発者が現実世界の能力を持つエージェントをより簡単に作成できるようにすることで、開発の敷居を大幅に下げます。さらに、ステートフルな設計とセマンティックイベントは、会話型AIの開発における主要な課題であったコンテキストの管理と対話の流れの理解を容易にし、より自然で堅牢な会話エージェントの作成を可能にします。
2.1 Chat Completions APIとの違い
Responses APIは、Chat Completions APIを基盤としつつ、AIエージェント開発に必要な機能が大幅に進化しています。Chat Completions APIでは複雑であったツール利用、コード実行、状態管理といったワークフローが、Responses APIではよりシンプルに扱えるようになります。
Responses APIは、Chat Completions APIがトークン生成ごとにコンテンツフィールドに追加していくのに対し、予測可能でイベント駆動型のアーキテクチャを採用しており、セマンティックイベントを通じて変更点を明確に通知します。これにより、複数ステップの会話ロジックや推論の実装がより容易になります。
また、APIの構造も異なり、入力はinput(文字列または配列)、出力はoutputとなります。構造化出力や関数呼び出しのAPI形状、推論のパラメータ名(reasoning.effort vs. reasoning_effort)も変更されています。さらに、Responses APIのSDKには、テキスト出力を容易に取得できるoutput_textヘルパー関数が用意されています。会話の状態管理においては、Chat Completions APIでは開発者自身が管理する必要がありましたが、Responses APIではprevious_response_idパラメータを利用することで、長期間の会話におけるコンテキスト管理が容易になります。
ステートフルなAPIとセマンティックイベントへの移行は、より堅牢で信頼性の高いエージェントアプリケーションの構築を目指す動きを示しています。Chat Completions APIのステートレスな性質は、コンテキスト管理のために開発者が複雑なロジックを実装する必要がありましたが、Responses APIはこの課題を軽減します。組み込みの状態管理と明確なイベント通知により、複数ターンの対話やツールの統合における複雑さとエラーの可能性が低減され、開発者はエージェントの核となる機能に集中できるようになります。
また、入力・出力構造の簡素化やSDKヘルパーの提供は、特に複雑なエージェントワークフローを構築する開発者にとって、開発体験の向上とAPIの直感的な利用を促進するでしょう。
2.2 Assistants APIとの関係性
Responses APIは、Assistants APIのベータ版からのフィードバックに基づいて重要な改善が施されており、より柔軟性、速度、使いやすさが向上しています。OpenAIは、Assistants APIが持つ主要な機能(AssistantやThreadのようなオブジェクト、Code Interpreterツールなど)をResponses APIに完全に統合することを目指しています。そして、機能が完全に統合された後、2026年前半を目処にAssistants APIの正式な廃止を発表する予定です。
Assistants APIからResponses APIへの移行を円滑に進めるために、明確な移行ガイドが提供される予定です。当面の間、Assistants APIは引き続きサポートされ、新しいモデルも追加される予定ですが、新規の統合においてはResponses APIの利用が推奨されています。
Assistants APIの廃止計画は、Responses APIがエージェント開発のための主要なプラットフォームとなるというOpenAIの強い自信を示しています。明確な廃止時期と移行支援の提供は、開発者に対してResponses APIへの移行計画を立てるための必要な情報を提供し、この新しいアプローチへの長期的なコミットメントを示唆しています。
また、Assistants APIベータ版からのフィードバックを反映していることは、OpenAIが実際の開発者の経験に基づいてエージェント構築ツールを積極的に改善していることを示しています。このようなユーザーからの意見を取り入れる姿勢は、Responses APIが開発者コミュニティのニーズに合致し、以前のAPIで遭遇した課題に対処できる可能性を高めます。
3. Responses APIで何ができる?
Responses APIを活用することで、より高度なAIエージェントを構築し、様々なタスクを自動化することが可能になります。組み込みツールを利用することで、単一のAPI呼び出し内でWeb検索、ファイル検索、コンピューターの利用といった複数の機能をシームレスに連携させることができます。
例えば、コンピューター利用ツールを使えば、ソフトウェアの操作を自動化し、ワークフロー全体を効率化できます。また、情報を効果的に取得・処理し、それに基づいてアクションを実行するAIアプリケーションを開発することも可能です。
具体的な活用事例としては、最新の情報や製品に関する推奨を提供するショッピングアシスタント、膨大なデータセットから実用的な洞察を迅速に抽出するリサーチエージェント、最新の旅行情報を基に計画を立てる旅行予約エージェント、FAQへの容易なアクセスと迅速な回答を提供するカスタマーサポートエージェント、過去の判例を素早く参照する法律アシスタント、技術ドキュメントを検索するコーディングアシスタントなどが挙げられます。
さらに、企業の旅行規定などの知識ベースから正確な回答を提供するAI搭載の旅行代理店も実現可能です。Responses APIは、顧客サービス、IT運用、金融、サプライチェーン管理といった様々な業界のエンタープライズユースケースに適しており、AIを活用した自動化によってワークフローを効率化し、生産性を向上させることが期待されます。
これらの幅広いユースケースは、Responses APIの汎用性と、より洗練された自動化と情報検索能力を通じて、多くの産業に影響を与える可能性を示しています。顧客サービスから法務調査まで、これらの例は、Responses APIで構築されたAIエージェントの広範な適用可能性を示唆しており、開発者や企業にとって大きな市場機会となる可能性があります。
組み込みツールの重視は、OpenAIが開発者に対して、現実世界やデジタル環境とより直接的かつ効率的に対話できるエージェントを作成する能力を提供しようとしていることを示唆しています。これらの主要機能をAPI内に統合することで、OpenAIは外部連携への依存度を減らし、より自律的で強力なAIエージェントの構築を可能にしています。
3.1 より高度なAIエージェントの構築
Responses APIは、単にテキストを生成するだけでなく、より複雑なタスクを実行できる高度なAIエージェントの構築を支援するように設計されています。このAPIを使用することで、AIシステムは情報を理解し応答するだけでなく、処理した情報に基づいてアクションを実行することが可能になります。Responses APIは、ツールとの連携やタスクの実行を簡素化し、複数ステップの会話ロジックや推論を容易に実装できます。
さらに、エージェントの設計とスケーリングに伴う複雑さを抽象化するオーケストレーションフレームワークであるAgents SDKも提供されており、より大規模で複雑なエージェントソリューションの開発を支援します。
Responses APIとAgents SDKの組み合わせは、複雑なAIエージェントシステムの構築と展開のための包括的なツールキットを開発者に提供し、より自律性と問題解決能力の高い新世代のAI駆動型アプリケーションにつながる可能性があります。
APIはモデルとツールとの主要なインタラクションを処理し、SDKは複数のエージェントのオーケストレーションとスケーラビリティを管理するためのフレームワークを提供することで、開発者はより野心的なプロジェクトに取り組むことができます。
3.2 組み込みツールによる機能拡張
Responses APIの大きな特徴の一つが、Web検索、ファイル検索、コンピューターの利用という3つの強力な組み込みツールです。これらのツールを活用することで、AIエージェントは外部の情報源にアクセスしたり、ローカルのドキュメントを操作したり、さらにはコンピューターのインターフェースを介してタスクを実行したりすることができます。
3.2.1 Web検索:最新情報へのアクセス
Web検索ツールは、インターネット上の最新情報にアクセスし、正確かつ引用付きの回答を提供します。ChatGPTの検索機能と同じツールを使用しており、会話の流れやフォローアップの質問にも対応できます。このツールはgpt-4oおよびgpt-4o-miniモデルで利用可能であり、他のツールや関数呼び出しと組み合わせて使用することもできます。検索結果には情報源へのリンクが含まれるため、ユーザーはさらに深く情報を探求することができます。現在、すべての開発者がプレビュー版として利用できます。
強力なWeb検索ツールがAPIに直接統合されたことで、AIエージェントは最新かつ関連性の高い情報を提供する能力が大幅に向上し、最新の出来事や動的なデータへのアクセスを必要とするタスクにおいて、より価値のある存在となります。ChatGPTと同じ検索技術を活用することで、Responses APIは高レベルの検索品質と関連性を保証し、開発者はユーザーの質問に効果的に答え、調査タスクを実行できるエージェントを構築できます。
3.2.2 ファイル検索:ドキュメントからの情報抽出
ファイル検索ツールは、大量のドキュメントから関連性の高い情報を容易に抽出することを可能にします。複数のファイル形式をサポートし、クエリの最適化、メタデータフィルタリング、カスタムランキングなどの機能を提供することで、高速かつ正確な検索結果を実現します。Responses APIで利用できるだけでなく、Assistants APIでも引き続き利用可能です。利用料金は、1,000クエリあたり2.50ドル、ファイルストレージは1GBあたり1日0.10ドルで、最初の1GBは無料です。
ファイル検索ツールは、ドキュメントのような非構造化データをAIエージェントが扱えるようにすることで、情報がこの形式で保存されていることが多い企業アプリケーションにおいて、より汎用性を高めます。効率的かつ正確なドキュメント検索を提供することで、Responses APIは、ドキュメントの要約、社内知識ベースに基づく質問への回答、レポートからの主要情報の抽出といったタスクを自動化できるエージェントの開発を可能にします。
3.2.3 コンピューターの利用:タスクの自動化
コンピューター利用ツールは、ChatGPTのOperator機能と同じComputer-Using Agent (CUA)モデルを搭載しており、コンピューター上でのタスク実行を可能にする画期的な機能です。このツールは、モデルによって生成されたマウスとキーボードの操作をキャプチャし、開発者がこれらの操作を環境内で実行可能なコマンドに直接変換することで、コンピューター上のタスクを自動化できます。スクリーンショットをツールに渡すと、クリック、スクロール、入力などのアクションを指示する応答が返されます。
CUAモデルは、自律的なUIナビゲーション、UIの変更への動的な適応、アプリケーションを跨いだタスク実行を可能にし、自然言語の指示に基づいてUI操作を決定します。現在、Responses APIの研究プレビューとして、特定の開発者(Tier3〜5)に提供されています。Microsoftは、Windows 365やAzure Virtual Desktopとの統合も検討しています。また、悪用を防ぐための多層的な安全対策が講じられています。
コンピューター利用ツールは、デジタル環境内で複雑なタスクを実行できる真に自律的なAIエージェントの作成に向けた大きな一歩であり、さまざまな業界のワークフローと自動化に革命をもたらす可能性があります。AIエージェントがコンピューターインターフェースと直接対話できるようにすることで、Responses APIは、従来のメソッドでは自動化が困難または不可能であったタスク(レガシーシステムの操作やGUIベースのアプリケーションとの対話など)の自動化の可能性を開きます。
研究プレビューのステータスと安全対策への注力は、OpenAIがこの強力な機能を慎重かつ責任ある方法で展開しようとしていることを示しており、AIがコンピューターシステムを制御することに伴う潜在的なリスクを認識していることを示唆しています。
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表1. APIの機能比較4. 開発者がResponses APIを利用するメリット
開発者がResponses APIを利用するメリットは多岐にわたります。まず、Assistants APIと比較して使いやすさが向上しています。また、エージェント指向アプリケーションを構築するためのより柔軟な基盤を提供します。Chat Completions APIのシンプルさとAssistants APIのツール利用能力を兼ね備えているため、複数のツールを使用する複雑なタスクも単一のAPI呼び出しで実行できます。
エージェントのパフォーマンス評価に必要なデータをOpenAIに容易に保存できる点もメリットです。ステートフルなAPIであるため、会話管理が簡素化され、予測可能でイベント駆動型のアーキテクチャを採用しています。セマンティックイベントにより型安全性が向上し、SDKには便利なoutput_textヘルパー関数も用意されています。さらに、情報の取得、推論、アクションの実行が統合されており、複数のAIツールを連携させる複雑さを軽減します。エンタープライズユースケースにも対応できるスケーラビリティも備えています。
Responses APIは、以前のAPIと比較して、よりアクセスしやすく統合されたプラットフォームを提供することで、洗練されたAIエージェントの開発を民主化することを目指しています。これにより、さまざまな分野で革新的なAI駆動型アプリケーションの作成が急増する可能性があります。開発プロセスを簡素化し、不可欠なツールをすぐに利用できるようにすることで、OpenAIは高度なAIエージェントを構築したい開発者にとっての参入障壁を下げ、より活気に満ちた多様なAIアプリケーションのエコシステムを育成する可能性があります。
5. まとめ
OpenAI Responses APIは、AIエージェント開発における重要な進歩であり、従来のAPIと比較して、よりシンプルで柔軟、かつ強力なプラットフォームを提供します。組み込みツール、改善された状態管理、そしてアクション指向のアプリケーションへの注力は、洗練された自律的なAIシステムを構築しようとする開発者にとって、魅力的な選択肢となります。Assistants APIの廃止計画は、Responses APIがOpenAIプラットフォームにおけるエージェント開発の未来であることを明確に示しています。
6. 参考文献
Responses vs. Chat Completions - OpenAI API
New tools for building agents | OpenAI
New tools for building agents: Responses API
Introducing the Responses API - Announcements - OpenAI Developer Community
Web Search and States with Responses API - OpenAI Cookbook
Developer quickstart - OpenAI API
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