レポート
2024.10.01(火) 公開
DX & AI Forum 2024 Summer Tokyo
参加レポート
今回は、SBクリエイティブ株式会社が主催する「DX & AI Forum 2024 東京 Summer」に参加してきました。
当イベントは、東京だけでなく名古屋や大阪でも開催されているものとなっています。AIを活用したDX全般がイベントのテーマとなっていましたが、イベント概要や当日参加してみての印象としては、各社の講演や展示コーナーでは生成AI系のコンテンツが豊富でした。
また、生成AI関連の講演は特に人気で、事前の予約で満席になるものもあったり、当日も会場に入り切らずサテライトで聴講する場面もしばしば見受けられました。
今回は私が参加した講演の中で興味深かった2つについて、紹介いたします。
1. たった1ヵ月で実装~東急流『完璧を求めない』生成系AIの創り方~
こちらは東急株式会社によるtoCや社内向けのサービスである「TsugiTsugi」に、生成AIを導入して新機能を追加した際の事例を紹介いただきました。
講演の概要としてはサブタイトルにもあるように、生成AIには完璧な回答は求めずに、多少の誤差は許容してもらえるようなUIの作成やリスクマネジメントを行ったというものでした。
「TsugiTsugi」とは、定額で全国200以上の施設に宿泊できるサブスクリプションサービスです。
生成AIを導入する以前は、ユーザーの「旅行をしたいという思いはあるが、そもそもどこに行ったらいいのか」といった課題(旅行の計画から実行に移すまでの壁)に対してアプローチができていなかったことから、生成AIを使ってチャットボット形式でユーザーへの提案機能を追加することを思いついたそうです。
ただ、当時(2023年5月頃)の生成AIはハルシネーションという大きな壁があり、開発期間や技術的なことを考慮すると、これを解決することは難しいと判断し
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プロンプトでAIの回答に制約をかける
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Embeddings APIを使ってデータベースを参照したもののみを元に回答にすることで、嘘がつけないようにする
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チャットボットのキャラクターデザインや裏側の設定を工夫し、多少の間違いは許してもらえるようなAIを目指す
などの工夫をしたと語られていました。
「日々モデルは進化し続けており、現在ではハルシネーションがかなり抑えられている一方で、まだまだリスクの部分に敏感になっていて着手できていない企業もあると思う。最低限のリスクはヘッジしたうえで、アジャイルでライトにできるところから開発をすることで、ノウハウもたまっていき顧客に利益をもたらす速度も早まっていくと考えている」という言葉で本講演は締められていました。
生成AIを使う部分が顧客に近ければ近いほど、回答の精度やリスクについては慎重になりその結果開発に着手できないという事象は起きがちですが、モデルや技術の進化により以前よりも比較的使いやすくなってきていると感じています。まずは社内利用といった形で顧客にダイレクトに影響が出ない範囲で開発・導入を進めていくことで、生成AIに対してのノウハウや理解を深めていくことができるのだと思います。
2. 生成AIによる企業再創造 “Reinvention”
こちらはアクセンチュア株式会社による日本企業におけるDX変革に向けての多くの課題について、生成AIを活用した打ち手と企業の再創造をするために必要なアプローチについての講演でした。
「Oxford EconomicsのGDP国別予測を基準とした3つのシナリオに基づくGDP成長シミュレーション」より、生成AIの活用で2038年までに最大135兆円の経済効果を生み出すことができると推測されています。
このシミュレーションには、
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アグレッシブ:今人がやっていることをとりあえず生成AIに置き換える
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慎重:人の仕事を奪わないように人の仕事をサポートしていくかという観点で生成AIを導入していく
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人間中心:人の働き方が根本的に変わる前提で、生成AIを使いながら働き方を変えていくかを中心に考えていく
という3つのシナリオがあり、人間中心のシナリオで進んでいった場合に135兆円の経済効果を生み出すと言われています。
さらに、「人間中心」と「アグレッシブ」の差は102兆円と言われており、生成AIの活用の考え方をいかに「人間中心」に寄せていくかどうかが重要になってきます。
講演の中では、生成AIを使った2つの事例についても紹介されていました。
1つ目は、生成AIで提案書を作らせるというものです。生成AIが出始めはかなり内容が薄い提案書になっていると評価されていました。2つ目の事例は、アイディア出しのミーティングに生成AIにも入ってもらい意見をもらうというのです。こちらは、人がミーティング内で出したアイディアをまとめるだけでなく、それを聞いて生成AI自身がアイディアを出すことも行っており、1つ目に比べて内容が充実していると評価されていました。
以前はクリエイティブな仕事はAIにはまだまだ難しいと言われていましたが、生成AIではこういったこともすでにでき始めていることに驚きと発見がありました。
これについては講演の中でも語られており、コミュニケーションやクリエイティブといった人間が得意としてきたことが生成AIにもできるようになってきていることで、人に求められるスキルが変わってきた。継続的に人間に求められるものは、
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人間にしかできないこと
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機械にできても人間がやるべきもの
の2点であると述べられていました。
事例も含め、アクセンチュアでは、生成AIが様々な活用ができるという実感と、それに対して中長期的な活用目線が日本企業では弱いという危惧の両方を挙げていました。
日本企業の特徴として
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重い技術的負債がある
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危機意識が低い
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人手不足
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変革プランと経営目標が連動していない
という大きく分けて4つありますが、生成AIはこれらを解決をできると言われていました。
最後に、昨年ChatGPTによって生成AIの注目度を上げ、それによって多くの企業や人が興味を持っている段階でしたが、今年は企業によってそこに本気で投資していくかの差が見え始め、これが企業の将来を左右していくと述べられていました。
生成AIを活用できる環境を持っておくことや変化を起こしていくことを企業全体で受け入れて、動いていく重要性をとても感じました。
3. まとめ
様々な企業講演・事例講演を聴講しましたが、生成AIを使って働き方を大きく変えていく必要性を改めて認識しました。
生成AIには、確からしくない回答をするハルシネーションといったリスクが伴いますが、「Embeddings APIを使ってデータベースを参照したもののみを元に回答」するといった技術によって、そのリスクを抑える方法も紹介されていました。
一方で、講演ではそこまで触れられていませんでしたが、データベースを参照するだけではハルシネーションを避けられないケースもあります。
例えば、参照するデータのテキストは、データベース内で分割されて保存(チャンク化)するのですが、その分割の仕方によって、質問と回答となる部分がデータで分かれてしまって、適切な回答にたどり着けないといったケースです。
その様な課題に対しては、GraphRAGといったナレッジグラフを用いた技術も直近では注目を集めており、生成AIをめぐる技術については、継続して追いかけていくことで、社会の流れに遅れをとることなく新しい働き方や価値を創造できるのだと思いました。
NOB DATAでは、これまでも様々な企業に生成AIに関するシステムや、サービスを導入してきました。
生成AIを導入することでクライアント企業様の成長を促していければと思いますので、これからもツールやサービスについてより学びを深めていき、より良い生成AIに関するシステム・サービスを提供いたします。
この記事の著者
データサイエンティスト
烏谷 正彦
AI系のスタートアップ企業で、データサイエンティストとしてビッグデータを用いたアナリティクスを提供。現在は、生成AIのソリューションや教育を提供するフリーランスとして活動。最近の趣味は、銭湯に向けてランニングをすること。NOB DATAでは、生成AIまわりのリサーチや情報発信を担当。
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