レポート

2025.2.26(水) 公開

DX & AI Forum 2025 Winter 東京 参加レポート

レポート NOB DATA株式会社

今回は、SBクリエイティブ株式会社が主催する「DX & AI Forum 2025 Winter 東京」に参加してきました。
当イベントでは、AIを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)をいかにして実現していくかを、様々な分野のビジネスリーダーが話しています。

その中で、印象に残った基調講演を中心に、関連する講演についても触れていきたいと思います。

1. 基調講演:Digital Ready ーAI・デジタルの進化が迫る変革ー

基調講演では、株式会社IGPI Digital IntelligenceのCEOである川上 登福氏から、DXの本質や課題、そしてそれを進めるための具体的な方法について語っています。

本講演では、まず日本におけるDXの遅れの背景について触れられました。特に、デジタル技術を活用する以前の段階である「デジタイゼーション(アナログ情報のデジタル化)」が十分に進んでいないことが問題視されていました。

企業のDX推進において、DXやデジタル化について、総論賛成・各論反対となっている場面が多く、技術の問題よりもむしろ「現場の抵抗」や「組織文化」が最大の障壁となっており、これがDXがなかなか進まない理由であると指摘されました。多くの企業では、デジタル化の導入が「これまでの業務の否定」と捉えられ、変革に対する強い反発が生じています。このような現場の抵抗を乗り越え、DXを成功させるためには、業務の抜本的な見直しが不可欠であり、まずは「不要な業務を削減する」ことから始めるべきだと述べられています。

まず、デジタル化の進展について、2000 年代初頭の GE での取り組みなどを例に挙げながら、日本の DX の遅れが指摘されました。デジタル化(デジタイゼーション)が進まなければ、その先の業務変革(デジタライゼーション)も実現しないため、まずはデータを整備することが不可欠であるとの見解が示されています。

次に、具体的な業務プロセスのデジタル化に関する考え方についても説明されました。
単なる業務の IT 化ではなく、そもそも不要な業務を排除することから始めるべきであり、デジタルを導入する前に業務の見直しを行うべきだという考えが示されました。このプロセスにおいては、従来のやり方に固執する現場の反発が発生しやすいため、それをどう乗り越えるかが課題となると挙げられました。

さらに、AI の活用に関しては、特に LLM(大規模言語モデル)を活用した業務自動化の可能性が指摘されました。情報処理の多くが AI によって自動化されることで、企業の業務フローは大きく変わる可能性があると説明されました。また、企業がデータを活用するためには、単にデータを収集するだけではなく、顧客にとってのメリットを提供することで、データを取得しやすくする仕組みを構築する必要があるとの指摘がありました。

最後に、デジタル化が進む中で企業の競争環境が変化し、バリューチェーンの再構築が求められることが説明されました。特に、ハードウェアとソフトウェアの関係性が変わり、ソフトウェア主導の時代へと移行する中で、企業はソフトウェアを活用した競争力の強化を進める必要があると述べられました。DX の成功には、単に技術を導入するだけでなく、業務プロセスの見直しと組織改革を伴うことが必要であり、その実現には現場との対話や変革を推進するための適切な戦略が不可欠であるとまとめています。

2. 企業講演・事例講演

基調講演の内容をまとめましたが、他に参加した多くの企業講演・事例講演でも、まさに現場の抵抗を乗り越えることの困難さや、不要な業務を削除するといった業務プロセスの見直しの重要性を考えさせられます。

株式会社マネジメントソリューションズ船津氏の講演では、DXの取り組みがIT部門主導になると業務目線がなく上手くいかず、業務部門が主導になると自部門への個別最適が進んでしまうため、全社目線で行うことの重要性が挙げられました。

株式会社マネーフォワード松岡執行役員の講演では、自社のバックオフィス業務のDXとして、労務と経理のコミュニケーション不足が課題であったことがあげられ、DXを経理改善PJTとは位置づけずに、バックオフィス全体で見てシステム連携やデータ清流化を行ったことが成功の鍵であったことでした。

他にも、多くの講演で「全社視点での業務改善」というキーワードがよく聞かれ、AIやDXが個別部署の取り組みから、全体に広がっている・広げないと成功しないという意識が多く聞かれました。

3. まとめ

「全社視点での業務改善」という言葉は、2000年代のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)がブームになったころに聞かれた、ある意味懐かしい言葉です。

一方で、今改めてその言葉がDXの文脈で聞かれるということは、BPRブームでは対応しきれなかった課題・新たに生まれてきた課題に対して、生成AIを含むDXで対応していくことが、いま多くの企業で求められているのではないかと感じました。

そのために必要なことは多くありますが、やはり基調講演で繰り返し言及された「現場の抵抗を乗り越える」ために「不要な業務を取り除くこと」。そして、その不要な業務を見つけ出し・改善していくために、まさにマネーフォワードが取り組まれたシステム連携やデータの清流化を行っていくことが、スタートになるのではないでしょうか。

どうしても、生成AIやDXといった言葉を聞くと、魔法のように聞こえてしまい、それを使えば何でも解決してしまいそうな気もしますが、実際はそうではありません。
それらを上手く使うためには、しっかりとした準備や、関係者を巻き込んで進めていくことが欠かせません。

今回、講演を取り上げた企業は、既に生成AIの活用やDXを自社で上手く進めている企業です。
ぜひ、彼らの話を念頭におきながら、自社をより良いものにしていくための生成AIの活用やDXを進めていくんだ。そういう思いを持っていただければ幸いです。

この記事の著者

レポート NOB DATA株式会社

データサイエンティスト

烏谷 正彦

AI系のスタートアップ企業で、データサイエンティストとしてビッグデータを用いたアナリティクスを提供。現在は、生成AIのソリューションや教育を提供するフリーランスとして活動。最近の趣味は、銭湯に向けてランニングをすること。NOB DATAでは、生成AIまわりのリサーチや情報発信を担当。