レポート
2025.11.25(水) 公開
EdgeTech+ 2025 参加レポート
目次
1. 全体概要
今回は、一般社団法人 組込みシステム技術協会が主催する「EdgeTech+ 2025」に参加してきました。
EdgeTech+は、生成AI・エッジAI・IoT・セキュリティが融合する最先端の組込み技術エコシステムを俯瞰し、“静かな制御装置”を“戦略的価値創出エンジン”へと進化させる変革の最前線を体感できる、日本最大級の展示会です。
今回は、参加した11月21日(金)に行われた基調講演の中から、特に印象に残った2つを取り上げていきます。
2. インテルEdge AI戦略 / Open Edge Platform(業界横断型AIソリューションを加速する新基盤)
インテル・コーポレ―ション
バイスプレジデント
ゼネラルマネージャー オブ ザ インダストリアル アンド ロボティクスディビジョン
ジョン・ヒーリー 氏
はじめに
本講演は、半導体産業の歴史的な発展を振り返りつつ、近年急速に進むエッジ領域でのAI活用とデジタル化の動向、そしてそれらを支えるインテルの取り組みについて紹介することを目的として行われました。エッジにおけるAI活用の価値と、その実現に必要なハードウェア・ソフトウェア基盤、さらに業界との協働事例などを通じ、未来の産業基盤の姿を示す内容となっていました。
エッジAIの価値と産業領域での応用
多くの産業で自律化が進み、その中核となるのがエッジにおけるAI活用であると説明されました。
AI、標準化された接続性、セキュリティ、決定性の高い制御、そして分析技術が組み合わさることで、産業分野に大きな価値が生まれています。
具体例は次の通り。
- 農業:作物の生育状況を分析し、収穫適期を判断するなど、生産性向上に貢献
- 医療:腫瘍や神経の画像診断支援にAIを活用し、診断の精度向上
- エネルギー・インフラ:ネットワーク状態を分析し、安全性・効率性・信頼性を強化
こうした産業用途では、高速処理や低遅延、電力効率、既存設備との共存など、エッジ特有の要件を満たす必要があるとのことです。
エッジ導入における課題と必要なアプローチ
エッジAIの導入には多くの課題があり、その代表的なものとして次が挙げられました。
- ユースケースの断片化:用途ごとに要求環境が異なるため、汎用化が困難
- 既存インフラとの共存:既存のワークロードを維持しつつAIの追加が必要
- 電力・フォームファクタなどの制約:環境に応じた設計が必要
- リアルタイム性の確保:製造業などでは決定的な応答時間が必須
これらの課題に対し、以下のアプローチが重要だと説明しています。
- ソフトウェア定義化の推進
仮想化やコンテナを活用し、スケーラブルで高度な制御が可能な基盤を構築 - エッジ向けプラットフォームの標準化
リファレンスアーキテクチャを提供し、各社が安定した構成でシステムを構築できるよう支援 - AIスイートの提供
製造・小売・インフラ・スマートシティ・ロボティクスなど、用途別に最適化されたAIライブラリやガイドラインを提供
製造業におけるデジタルツイン活用の事例
日本国内の半導体工場との協働事例が紹介されました。
この工場では自動搬送システムを用いていましたが、需要増加と設備追加により、物流負荷が増大していました。
インテルは工場全体のデジタルツイン(仮想モデル)を構築し、生産ライン、装置配置、物流動線をシミュレーション可能な環境を提供しました。さらに、Intel Factoryソリューションを組み合わせ、機器の状態遷移を可視化し、運用改善につながる洞察を導き出しました。
その結果、ロジスティクスの移動距離の短縮、生産スループットの向上、故障発生から復旧までの時間短縮などの成果が得られました。
デジタルツインとAI分析により、現場の複雑性を可視化し、改善につなげた好例として紹介されました。
おわりに
インテルは、長年培ってきたハードウェア・ソフトウェア技術、オープンなプラットフォーム、エコシステムとの連携を生かし、エッジAIの本格展開に向けて「Open Edge」構想を推進していると述べました。これは以下の3層構造で構成されます。
- Edge AI Systems:ハードウェア基盤とリファレンス構成の提供
- Open Edge Platform:オープンソースのソフトウェア基盤
- AI Suites:業界ごとに最適化されたAIライブラリ群
また、顧客やパートナー企業との共同開発を重視し、より実用的で持続的なソリューションを提供していくことが今後の主要なチャレンジであるとまとめられました。
3. 生成AIとAIエージェントがもたらす製造業DXとAWSの役割
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(同)
技術統括本部 エンタープライズ技術本部
自動車・製造グループ
第三ソリューション部
部長
鈴木 健吾 氏
はじめに
本講演では、生成AIやAIエージェントが企業、とりわけ製造業にもたらす価値と、それを支えるAWSのクラウド基盤について紹介することを目的としていました。参加者の多くはすでに業務の中で生成AIの活用を始めている、あるいは自社プロダクトやサービスに生成AIを組み込みたいと考えている方々であり、他社の取り組み事例を知りたい、これからどのように活用を進めるべきかを考えたい、というニーズに応える内容となっていました。
生成AI・デジタル活用の現状と課題
はじめに、日本の製造業におけるデジタル活用の現状が、各種調査結果を基に示されました。生産管理や設備保全など工場内の業務においては、センサーやIoTを活用したデータ取得や、AIによる分析が比較的進んでおり、多くの企業でデジタル化や自動化が実現しつつあります。一方で、顧客やマーケットの情報活用、顧客接点におけるサービス提供など、外部に開かれた領域では、依然としてデジタル活用が遅れている傾向があるとのことです。
デジタル変革が進んでいる企業では、歩留まり率の改善、設備稼働の最適化、開発リードタイムの短縮、市場投入までの時間の圧縮など、具体的な成果が出ていることも紹介されました。その一方で、現場には多種多様な装置やシステムが混在し、データが分散・サイロ化しているために、データを集約・活用するまでのハードルが高いという課題もあります。スマートプロダクトやエッジデバイスが増えることで、データ量は飛躍的に増加しており、どのデータをどのタイミングで収集し、どのように価値のある形で活用するかが重要なテーマになっていることが強調されていました。
Amazon Bedrockと生成AIエージェントの特徴
そのような課題に対して、生成AIとAIエージェントに関するAWSの中核サービスとして、Amazon Bedrockが紹介されました。Amazon Bedrockは、生成AIを活用したアプリケーションを構築するために必要な機能をまとめて提供するマネージドサービスであり、複数の基盤モデルから用途に応じて最適なものを選択して利用できる点が特徴です。Amazonが自社で開発するモデルだけでなく、他社のモデルも含めて選択でき、コストや性能、用途に応じた柔軟な構成が可能であると説明されました。
生成AIエージェントについては、「デジタルまたはフィジカルな環境と対話しながらデータを収集し、そのデータを用いて自己学習を行い、決められた目標を自律的に達成していくシステム」であると定義されました。従来の生成AIが、与えられた指示に対して文章やコードなどのコンテンツを生成することに主眼があったのに対し、エージェントは自らタスクを分解し、必要なツールや外部システムと連携しながら、継続的に行動し目標達成を目指す点が大きな違いです。
また、RAGのように、自社のデータを安全に参照しながら回答を生成する仕組みや、ガードレールによって不適切な回答を抑制する仕組みなど、安全性と責任あるAI利用を支える機能が重要です。こうした機能を組み合わせることで、業務システムに統合された、信頼性の高い生成AIエージェントを実装できるという位置付けが示されました。
製造業におけるユースケースと期待される効果
具体的なユースケースとしては、顧客体験の向上、従業員の生産性向上、サプライチェーンや保全業務の高度化などが挙げられました。
顧客体験の領域
パーソナライズされたレコメンデーション、チャットボットによるカスタマーサポート、店舗やオンラインでの購買体験の高度化などが想定されています。待ち時間の削減や、24時間対応の実現など、顧客と企業双方にメリットがあることが説明されました。
従業員の生産性向上
コード生成支援やドキュメント作成の効率化、問い合わせ対応の自動化、教育・訓練コンテンツの生成などが挙げられました。これにより、現場の人材がより付加価値の高い業務に時間を割けるようになり、習熟時間の短縮や人材不足の緩和にもつながるとされています。
サプライチェーンや保全業務の高度化
設備に異常が発生した際に、センサー情報や過去の保守記録、技術資料などを統合し、故障の原因候補や対処手順を提示するエージェントの活用が想定されています。場合によっては自動的に一次対応を行い、必要に応じて人にエスカレーションする仕組みも実現可能です。また、在庫の最適化や需給予測、金融分野でのリアルタイムな不正検知など、他産業への応用例も紹介され、AIエージェントの活用範囲が非常に広いことが示されました。
おわりに
講演全体を通して、エッジデバイスに限らず、生成AI・エージェントによって製造業を含む多くの産業で具体的な成果を生み始めていることが示されました。
すでにデジタル変革を進めている企業では、歩留まり改善やリードタイム短縮など、明確なビジネス価値が確認されており、今後は顧客接点やサービス領域での活用がますます重要になると整理されました。
一方で、データの分散やシステムの複雑さ、安全性・責任あるAI利用といった課題も残されており、これらを乗り越えるためには、信頼性の高いクラウド基盤と、ガバナンスを含めた全体設計が不可欠であるとまとめられました。
4. まとめ
以前の展示・講演でも触れましたが、最近の生成AI・AIエージェントの領域として、「製造業向け」というものが多いように感じます。
今回の展示・講演も、エッジテクノロジー・エッジデバイスを中心におきながらも、多くは生成AIやAIエージェントがキーワードになっていました。これは、1度栄華を極めた日本の製造業の復活を目指すタイミングなのかもしれません。
製造現場の効率化や技術継承はもちろん、より付加価値を高めるための営業やカスタマーサポート、新事業創造など様々な形で生成AI・AIエージェントを駆使していこうとする内容が印象的でした。
一方で、やはりそれだけでは、自社のオリジナリティーがなくなってしまい、結局は勝てない製造業になってしまいます。どこに、生成AI・AIエージェントを使っていくのか。それを見極めていくことも重要ではないかと感じました。
NOB DATAでは、これまでも様々な企業に生成AI・AIエージェントに関するシステムや、サービスを導入してきました。
生成AI・AIエージェントを導入することでクライアント企業様の成長を促していければと思いますので、これからもツールやサービスについてより学びを深めていき、より良い生成AI・AIエージェントに関するシステム・サービスを提供いたします。
この記事の著者
データサイエンティスト
烏谷 正彦
AI系のスタートアップ企業で、データサイエンティストとしてビッグデータを用いたアナリティクスを提供。現在は、生成AIのソリューションや教育を提供するフリーランスとして活動。最近の趣味は、銭湯に向けてランニングをすること。NOB DATAでは、生成AIまわりのリサーチや情報発信を担当。
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