レポート

2025.12.25(木) 公開

AIエージェント博 by AI博覧会 参加レポート

レポート NOB DATA株式会社

1. 全体概要

今回は、株式会社アイスマイリーが主催する「AIエージェント博 by AI博覧会」に参加してきました。
AIエージェント博 by AI博覧会は、生成AIの次に注目されるAIエージェントに特化し、その実装フェーズの最新トレンドを最短でキャッチアップできる最先端の専門展示会です。

レポート NOB DATA株式会社

今回は、参加した12月11日(木)に行われたセッションの中から、特に印象に残った2つを取り上げていきます。

2. 予算必達に導く営業AIエージェントが変革する組織活動

株式会社Sapeet 取締役
ソリューション事業部 部長
尾形 友里恵 氏

はじめに

本セッションでは、生成AIブームの中で「とりあえずAI導入」ではなく、自社の売上や利益向上に直結するかたちで営業・企画業務にAIをどう投資し、どのように活用していくべきかを共有することを目的に話が展開しました。営業領域はこれまでデジタル化・システム化が進みにくかった分野ですが、生成AIとAIエージェントの活用によって、現場の感覚や属人的なノウハウを「科学」し、組織として再現できる状態を目指すというメッセージが中心となっています。

生成AI投資の現在地とPoCの落とし穴

一般的なAI・DX投資の「現在地」について整理されていました。世の中のデータでは、PoC(実証実験)の成功率は約5%程度とも言われ、単発で終わるケースが多いと指摘しました。

よくある失敗パターンとして、「ツールの利用率やラベリング精度といった『AIそのものの指標』を成功とみなしてしまい、『売上・利益への貢献』という経営者の関心軸とズレてしまう」ことが挙げられます。
何万時間分の業務削減を実現したにもかかわらず、その時間が売上増や新たな価値創出につながらず、「みんなが楽になっただけ」で終わってしまう例も多く、経営層から「そろそろ成果を出してほしい」と言われる状況になる始末です。

営業領域の課題とAIエージェントによるサイクル設計

営業領域は従来、「最後まで人間の領域」と見なされ、システム化やAI適用が遅れてきた分野です。商談の自由度が高く、現場の裁量も大きいため、画一的なルール化が難しいことが背景にあります。しかし、この1年で生成AIが、人間の曖昧な言動や文脈も扱えるようになってきたことで、営業領域でも一次情報をAIが吸い上げ、勝ちパターンを抽出し、アドバイスを返すことが現実的になってきました。

一方で、現場では
・何に集中すべきか分からないまま、準備不足の商談を重ねてしまう
・振り返りは主観的な日報程度にとどまり、マネージャーは「今月本当にいけるのか」が読みづらい
・ベテランの成功体験が若手に伝わらず、「あいつは度胸と経験談が違う」で終わってしまう
といった断絶が起きています。

営業戦略(ターゲット・重点商品・戦い方)と、日々の営業行動・商談内容・マネジメント・経営判断が一本の流れとして成立していないことこそが根本問題だと指摘しています。そこで、営業AIエージェントを「断絶をつなぐ存在」と位置づけ、
1.現場から一時情報を集め
2.AIが勝ちパターンやネクストアクションを提示し
3.それをマネージャーや経営がリアルタイムで把握・修正していく
という成長サイクルの設計が重要です。

事例:商談ストーリー生成とマルチエージェント設計

事例として、宝飾企業などでの取り組みが紹介されました。ある企業では、200〜600人規模の営業組織において、経営層や本部が「勝ちパターン」を定めるために、ハイパフォーマーの録音データや商談履歴を徹底的にリサーチし、戦略商品をどう提案しているかを構造化しました。しかし、これを人手で行うと1テーマのリサーチに8時間かかり、人手には負担が大きすぎるという課題がありました。

そこで、AIを用いて商談の流れやお客様の反応を解析し、「こういう顧客にはこの切り口」「このタイミングでこの一言」という形でストーリー化する仕組みを構築しました。1体のAIではなく、攻めの営業エージェント、守り(リスク・現実性)のエージェント、人間らしさをチェックするレビュアー的エージェントの3者が、マルチエージェントとして協調しながらドラフトを作る設計にしている点が特徴です。

営業AIエージェントのコンセプトと三つのブースト

株式会社Sapeetが今回ベータ版として発表した営業AIエージェントは、「成長し続ける営業組織のサイクルを回すこと」をコンセプトとしています。構造としては、現場やマネージャーが対話する「1人のフロントAI」を表側に置き、その裏側で複数のAIスタッフやAIディレクターが専門的な役割を担う設計になっています。

機能の整理としては、営業組織変革のための三つのブーストが紹介されました。

1.営業プレイヤーのためのブーストです。商談準備のリサーチ、商談中のリアルタイム支援、商談後の議事録・メール・評価の自動生成を通じて、営業担当者が「商談に全集中」できるようにします。1回の商談動画をアップするだけで一石三鳥、一石五鳥のメリットを感じてもらえるよう設計することで、「面倒だからやらない」ではなく「ないと困るツール」にしていくことを重視しています。

2.営業マネージャー向けのブーストです。現場の商談情報が蓄積されることで、目標達成に向けてどの案件にどう介入すべきか、どこを慎重に進めるべきかといったアドバイスがしやすくなります。AIが整理したパイプラインと商談要約をもとに、月次・週次の会議で「売上の読み」と「次の一手」をより精緻に議論できるようになります。

3.経営・戦略レベルでのブーストです。長期的には、蓄積された商談データを用いて、営業戦略の見直しや重点領域のシフトをデータドリブンで行うことを目指しています。どのターゲット・どの商品・どのメッセージが成果につながっているのかを検証し、戦略のアップデートと組織全体の集中先の示唆につなげる構想が語られました。

とはいえ、いきなり第三段階から始めるのではなく、まずは現場が気持ちよく使い、データが自然にたまる状態を作ることが何より重要であると強調していました。

おわりに

生成AI投資は近い将来、売上・利益への寄与で厳しく問われるため、最初からKPIと業務設計を明確にし、現場に定着する形で作り込むことが重要だとまとめられました。営業は変革余地が大きい領域であり、AIエージェントで現場情報を循環させることで、売るべきものを売り、成長し続ける営業組織を実現していく方針を示し、セッションを締めくくっています。

3. AIエージェントは人を労働から解放するのか?

株式会社ABEJA 代表取締役CEO 岡田 陽介氏

株式会社ベイカレント 経営企画部 AIプラクティスリード 小峰 弘雅氏

株式会社AVILEN 代表取締役 高橋 光太郎氏

はじめに

本セッションでは「AIエージェントは人を労働から解放するのか」という大きなテーマのもと、AIエージェントによって働き方はどこまで変わるのか、そして企業や個人はそれにどう備え、どう活用していくべきかを、登壇者3名が議論しました。
それぞれの視点から、未来の労働像、AI導入のステップ、人材育成や「生きがい」の在り方までを多面的に整理することが目的でした。

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AIで仕事はどう変わるのか

岡田氏は、AIによって労働時間は極端に短くなり得るという立場で、判断の多くはAIに任せ、人は論理では割り切れない「決断」だけを担う世界を描いていました。仕事を奪われることを恐れるより、奪ってもらって余暇を得る発想が重要だと述べています。また、成果を出すためには、「うまくサボる人」を称賛できる組織文化の必要性を説いています。

小峰氏は、AIが人を置き換えるだけでなく、人を拡張し成長させる方向も重要だと述べていました。AI活用には、AIが処理し人が最後に確認する自動化型と、AIが人を鍛え共同で品質を上げる拡張型があり、タスクによって使い分ける必要性を強調していました。歴史的にも技術革新で仕事は減る一方、新しい仕事が生まれてきたため、今ある仕事は「なくす前提」で再設計する姿勢が必要だとまとめています。

企業が進めるべき導入ステップ

岡田氏は、AI投資はライトな業務からではなく、止まると損失が大きいミッションクリティカル領域から入れる方が費用対効果が出やすいと述べています。ハルシネーション対策としては、複数AIの多数決と議論、人の拒否権とフィードバックを組み合わせる運用が有効とのことです。

小峰氏は、日本企業はガバナンスや育成は進む一方、事業変革のユースケースが弱いと指摘し、まずはエージェントを大量に作って自社業務の理解をAIに蓄積させることが重要だと述べました。その蓄積が進むと、業務やビジネスモデル自体をAIが提案する段階に近づくという見立ても示しています。

ミッションクリティカル領域からのAI導入と安全性設計

AI導入の手順に関して、短期(今後5〜10年)でどう進めるべきかという議論も行われました。

岡田氏は、ABEJAとして「ミッションクリティカル領域しかやらない」という方針を取っていると説明しました。GPUコストはまだ高く、薄く広く安価にばらまくモデルでは投資回収が難しいため、数億円の投資をしても数十億円の価値が出るような領域に絞るという考え方です。

そのうえで、ハルシネーションなどのミスをどう防ぐかという安全性の設計として、いわゆる「AIアラインメント」の考え方が紹介されました。エヴァンゲリオンのマギシステムを例に、複数の独立したAIにそれぞれ判断させ、多数決を取り、賛否に分かれた場合はディベートさせるというフレームワークです。

このような仕組みを使えば、原子力発電所のような極めて慎重さが求められる領域でもAIを活用しうるという、かなり踏み込んだ可能性も示されました。

人材像・育成と「生きがい」の再定義

最後に、人は何で価値を出すのか、人材育成をどう考えるか、そして「生きがい」をどこに置くべきかという議論が行われました。

人材像について、小峰氏はAIエージェント時代に活躍するのは「ジェネラリスト」だと述べました。エージェント構築の現場では、Linuxコマンド、ネットワーク、コンテナなど幅広い基礎知識が必要になることが多く、20年前に学んだことが今になって効いてきているといいます。深い専門性だけでなく、「浅く広く」一度触れた経験がある技術領域を増やしておくことが重要であり、そのうえでG検定のようなAI資格を位置づける方が良いと提案しました。

岡田氏からは、「生きがい」というキーワードでの問題提起がありました。仕事を生きがいにしている人が多い現状に対し、それはAI時代においてはリスクになり得ると指摘しました。AIは報酬関数に基づいて学習しますが、「生きがい」は明確な評価関数で表しにくく、例えば朝のコーヒーや散歩が生きがいであっても、それを数値化することは困難です。

仕事そのものが大きく変わったり、場合によっては不要になっていく世界で、仕事だけに生きがいを置いていると、退職や配置転換のタイミングで「自分は何のために生きているのか」という喪失感に陥るリスクがあると述べました。そのため、企業としても、仕事以外の領域も含めた「生きがいのポートフォリオ」を支援するようなキャリア支援が必要になるのではないかという問題提起がなされました。

おわりに

AIエージェントによって仕事は確実に変化し、「判断はAI」、「決断は人」という役割分担が進む可能性が示されました。企業はミッションクリティカル領域から実装しつつ、エージェント開発を積み重ねて自社の暗黙知をデータ化することが鍵になります。同時に、個人はジェネラリスト的な基盤を持ち、仕事以外の生きがいも含めて人生を再設計することが今後の挑戦になる、というのが全体の結論でした。

4. まとめ

AIエージェントや生成AIの実務での活用が進む中で、目の前の課題として「それをどう上手く使っていくのか・成功に結び付けるか」というテーマでの議論が多くなっています。
今回取り上げた1つ目のセッションがまさにそのテーマであり、これまで中々活用が難しいと言われていた営業領域でも、既にAIエージェント・生成AIの導入が進められているという事実は、多くの企業にとって重要な事例になるのではないでしょうか。

一方で、もう少し中長期の課題として「AIエージェント・生成AIの活用が進んだ社会で、人はどう生きていくべきか」というテーマも重要度を増してきています。
2つ目のセッションは、そのようなテーマに対して、様々な角度から議論がなされました。
AIの導入を考える一方で、それでは社員の、自分自身の「存在意義」や「生きがい」をどこにおいていくのかということも考えていかなければならない。
その際の、重要な参考になる議論ではなかったかと思われます。

NOB DATAでは、これまでも様々な企業に生成AI・AIエージェントに関するシステムや、サービスを導入してきました。
生成AI・AIエージェントを導入することでクライアント企業様の成長を促していければと思いますので、これからもツールやサービスについてより学びを深めていき、より良い生成AI・AIエージェントに関するシステム・サービスを提供いたします。

この記事の著者

レポート NOB DATA株式会社

データサイエンティスト

烏谷 正彦

AI系のスタートアップ企業で、データサイエンティストとしてビッグデータを用いたアナリティクスを提供。現在は、生成AIのソリューションや教育を提供するフリーランスとして活動。最近の趣味は、銭湯に向けてランニングをすること。NOB DATAでは、生成AIまわりのリサーチや情報発信を担当。


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